自己満足ワールド

その名の通り、自己満足なブログです。

適当に短編小説を書いた

こんばんは、今回は短編小説を書きたくなったのでお題を出して貰ってそれを書くことにしました。

今回のお題は『医者』です。

というわけで書いていきます。

 

 

 

 ある日の昼下がり、俺は温かい日差しが差し込む公園のベンチで適当に時間を潰していた。営業のノルマもサボってスーツ姿でボーッとしているのは最高に気持ちが良いが、よくない事をしているという焦燥感に襲われてもいる。しかし、動く気も起きないのでこうしてうつらうつらとしているわけだ。

 そうしていると、いつの間にか寝ていたらしい。気付けば、目の前に誰かが立っている。寝ぼけ眼をこすっていると、そいつは俺に喋りかけてきた。

「私は、ドクターだ。君は病気だ」

 初対面の相手に失礼な言葉を掛けて、俺をじっと見つめている。なるほど、白衣に手袋、それに聴診器を持ったその姿だけを見れば、医者と言える。

 しかし、その医者のような格好をしているという事実を以てしても、目の前のこいつは医者には見えなかった。その理由は単純であり、どこからどう見ても未成年の幼女としか言いようが無いからだった。

「お嬢ちゃんには悪いが、お医者さんごっこは別の場所でやってくれないか? 俺もそんなに暇じゃないんだ」

 しっしっ、と手で追い払うジェスチャーをしながら俺はそう告げた。自らをドクターと言い張る彼女は、頬を膨らませながらも話を続ける。

「失礼な事を言う。これでも私はその筋では名の知れたドクターだぞ」

 その筋ってどの筋だ。通っている学校でいつもお医者さんごっこの医者役をやっているとかそういう話なのか。

「……で、その有名なドクターさんはなぜ俺に声を掛けたんだ」

「言っただろう、君は病気だと。私は困っている人間を放っておけない性質でね」

 妙に大人ぶった言い回しだ。無視しても良かったが、俺はなんとなくそのまま会話に付き合うことにした。

「そーかい。病気って一体どんな病気だよ」

「なんとなく日々の張り合いがなく、だらだらとしてしまう。言ってしまえば五月病とか、そういった類のものだ」

「……まあ、心当たりはあるけどな」

 日々の張り合いがない。それは指摘された通りではあった。仕事も最低限、文句を言われない範囲でしかやる気もなく、休日にする趣味も特になく、死んだように生きていると言われても否定出来ないくらいには、無気力だった。

「そうだろう? なので、君にはこれを処方しよう」

 そう言って彼女は俺にビニール袋を差し出す。俺はそのままビニール袋を受け取って、中身は何だと問おうとして、彼女の方に目を向けるが――

「居ない……」

 彼女は姿を消していた。寝ぼけていて変な夢でも見たのかと思ったが、持っているビニール袋が現実だと言っている。

 ビニール袋の中には、何か文字が書かれたノートの切れ端と飴玉がひとつ入っており、ノートの切れ端にはこう書いてある。

『1日1粒舐めること。受け渡しは、また明日』

「……とりあえず、会社に戻るか」

 不思議なこともあるものだ。それはそれとして、そろそろ良い時間にもなってきたのでサボるのもやめよう、そうして俺は飴を口の中に放り込み、ベンチから立ち上がって歩き始める。飴はレモン味だった。

 次の日、また公園でサボっていると、いつの間にか自称ドクターの少女がやってきて、また俺に飴玉を渡して消える。

 そんな日が続き、いつの間にか日課になっていた。休日にもなんとなく公園に足を運び、彼女と少し会話して、飴玉を貰う、奇妙な関係。

 そして、ある日、彼女はこう告げた。

「――君の病気は治ったようだね。おめでとう」

「そうなのか?」

「そうだとも。君がここに来る理由は、サボる事ではなくなっただろう? なら君はもう大丈夫だ」

 確かにそうだった。サボるために公園に足を運ぶのが、いつの間にか公園に足を運ぶためにサボるようになっていった。

 少女と会ったのは公園でサボっていたからだが、別にいつもサボっていたわけではなかった。文句を言われない範囲で仕事をするということは、必然としてサボっても文句を言われないくらいには仕事をしていた、ということだ。忙しい時期はサボる暇なく働いていた。

 しかし、少女とここで会うようになってからは、公園に来る時間を自分で作れるように、いつもより余裕が出来るように精力的に働いていた。サボるために仕事をする、というのも奇妙な事だが、気がついたらそのようになっていたのだ。

「仕事以外で何か目的や習慣があれば、それをする為にやる気も出るというものだ。君にとっての習慣が、この会話だったというわけさ。わかったかね?」

 なるほど、納得は出来る。しかし、1つ疑問が出来る。

「……それってさ、つまりお前さんと会話する習慣が消えたらまた無気力になるって事じゃないのか?」

「あっ」

 しまった、という表情をする少女。その表情は、容姿に似合うあどけないものだった。

「……じゃあ、まだ暫くは治療を続けるということで」

 少女は逃げるようにビニール袋を押し付けると、姿を消す。

「……まあいいか」

 どうせやることもないのだ、もう少しだけ、彼女に付き合うのも悪くないだろう。

 飴玉を口の中で転がしながら、俺はそう思った。

 

 

 

 

書きました。1時間くらいで書けましたが、お題が1つだとむしろどうやって終わらせようかわからないので難しいですね。次に何かお題を貰って書くなら三題噺にしようと思います。